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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)1554号 判決

原告 中京総合リース株式会社

右代表者代表取締役 杉浦哲也

右訴訟代理人弁護士 吉田徹

同 鈴木匡

同 大場民男

同 鈴木雅雄

同 中村貴之

被告 有限会社藤康金型工業所

右代表者代表取締役 伊藤裕康

被告 伊藤裕康

被告 小林鶴美(旧姓 伊藤鶴美)

被告ら訴訟代理人弁護士 高崎貞夫

主文

一、被告有限会社藤康金型工業所は原告に対し、別紙物件目録記載の動産を引渡せ。

二、被告らは原告に対し、各自金二五七万六二五〇円及びこれに対する平成元年四月二八日から完済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

四、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告と被告有限会社藤康金型工業所(以下、「被告藤康金型」という。)は、原告を貸主、被告藤康金型を借主として、別紙物件目録記載のリース物件(以下「本件物件」という。)について、昭和五九年一月三一日に左記の内容を含むリース契約を締結した。

①リース期間 本件物件引渡日から起算して七二か月

②リース料 第一月から第七二月まで七二か月 各月金二八万六八〇〇円

③右支払方法 初回のリース料は、本件物件引渡日に現金にて支払い、第二月以降第七二月までのリース料は、本件物件引渡日に一括して振出し交付した、各該当月の五日を支払期日とする約束手形七一枚にて支払う。

④規定損害金

第一年度金一六四八万五〇〇〇円

第二年度金一三八七万五〇〇〇円

第三年度金一一二六万五〇〇〇円

第四年度 金八六五万五〇〇〇円

第五年度 金六〇四万五〇〇〇円

第六年度 金三四三万五〇〇〇円

再リース 金七八万五〇〇〇円

⑤懈怠条項 被告藤康金型について和議開始の申立があったときは、原告は被告藤康金型に対し通知催告を要せず本リース契約を解除することができ、この場合原告は被告藤康金型に対する右④の規定損害金の支払及び本件物件の返還を請求できる。

⑥遅延損害金 被告藤康金型が、本リース契約に基づく被告藤康金型の原告に対する債務の支払を遅滞したときは、年一四パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

2. 原告は、昭和五九年二月二四日、被告藤康金型に対し、本件物件を引き渡した。

3. 被告伊藤裕康及び被告小林鶴美は、昭和五九年一月三一日、被告藤康金型の原告に対する本リース契約による債務について連帯して保証した。

4. 被告藤康金型について平成元年四月上旬に名古屋地方裁判所へ和議開始の申立があった。

5. 原告は、平成元年四月二七日付けで同月二八日到達の契約解除通知書をもって本リース契約を解除する旨通知した。

6. よって、原告は、被告藤康金型に対しては本件物件の返還を請求するとともに、被告らに対しては、一1④記載の第六年度の規定損害金金三四三万五〇〇〇円からその年度の経過月数三か月分金八五万八七五〇円を控除した損害金二五七万六二五〇円及びこれに対する平成元年四月二八日から完済まで年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三、被告らの主張

被告藤康金型について和議開始の申立があったときは、原告は被告藤康金型に対し通知催告を要せず本リース契約を解除することができる旨の特約(以下、「本件特約」という。)は無効である。最高裁判所(昭和五七年三月三〇日判決・民集三六巻三号四八四頁)は、買主につき会社更生手続開始の申立があったことを解除事由とする所有権留保付割賦販売契約の特約を無効としたが、右判決の趣旨は本件にも適用されるべきである。

四、被告の主張に対する認否

被告の主張は争う。

原告主張の判決は、所有権留保付割賦販売契約に関するもので本件のようなファイナンス・リース契約には及ばないし、また、同判決は、会社更生法に関するもので、本件のような和議手続には及ばないものである。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二、被告らは本件特約(被告藤康金型について和議開始の申立があったときは、原告は被告藤康金型に対し通知催告を要せず本リース契約を解除することができる旨の特約)が無効である旨主張するけれども右主張を採用することはできない。なるほど原告の指摘する最高裁判所昭和五七年三月三〇日判決(民集三六巻三号四八四頁)は、買主につき会社更生手続開始の申立があったことを解除事由とする所有権留保付割賦販売契約の特約の効力が争われた事案につき、「買主たる株式会社に更生手続開始の申立の原因となるべき事実が生じたことを売買契約解除の事由とする旨の特約は、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ窮境にある株式会社の事業の維持更生を図ろうとする会社更生手続の趣旨、目的(会社更生法一条参照)を害するものであるから、その効力を肯認しえないものといわなければならない。」と判示しているが、会社更生法は企業を解体清算させることが利害関係人の利害のみならず広く社会的、国民経済的損失をもたらすことを考慮して制定されたものである。これと異なる趣旨、目的をもつ和議法に照らし本件特約が無効であるということはできないし、他に本件特約を無効とする理由を見出だすことができない。

(なお、被告側は本件訴訟につき和解案として原告が査定する現存価格の三割程度の金員でリース物件の買取りを求めたが、原告に右和解案を受け入れる意向はなく、さらに、和解期日における双方訴訟代理人の説明によれば、整理委員は裁判所に対し被告藤康金型の和議は不相当である旨の意見を提出しており、また、被告藤康金型の事業は多数のリース業者からリース契約によって提供された多数のリース物件を利用することによって成り立っており、本件同様リース業者からリース物件の返還を求める訴訟が数件提起されているとのことであり、以上の本件における具体的事情に照らしても、和議法の趣旨、目的との関係で本件特約を無効としなければならないとはいえない。)

三、以上の次第であるから、原告の本件請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、 九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 鬼頭清貴)

〈以下省略〉

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